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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(行ツ)152号 判決 1980年10月28日

上告人 東京ナシヨナル機器販売株式会社

被上告人 塩沢一男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋武、同若原俊二、同粟野重孝の上告理由について

旧実用新案法(大正10年法律第97号)22条1項2号に掲げる実用新案権についての権利範囲確認の審判は、現存する実用新案権の範囲を確定することを目的とするものであつて、実用新案権が存在することを前提にしているものであるから、請求人又は被請求人の保有する実用新案権が法定の存続期間の満了により終了したときは、請求人は同条3項にいう利害関係人にあたらなくなり、その審判の請求は却下を免れないものであるが、特許庁が同庁昭和34年審判第29号事件について昭和53年2月10日にした本件審決当時上告人の保有していた登録第450992号の本件実用新案権が法定の存続期間の満了によりすでに終了しているとの上告人主張の事実は、上記審判事件ないし原審において主張されず、その認定を経ていないものであるから、本件実用新案権が終了したことを前提とする所論は、原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものであつて失当である。その他、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判法する。

(裁判官 寺田治郎 裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己)

(昭和54年(行ツ)第152号 上告人 東京ナシヨナル機器販売株式会社)

上告代理人高橋武、同若原俊二、同粟野重孝の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。その理由は、以下のとおりである。

1 原判決は、被上告人の確認審判を請求する利害関係を否定して、被上告人の請求を却下した甲第7号証の審決(以下本件審決という)は違法であるとして、これを取消した。その理由は、甲第4号証の上告棄却判決によつて、上告人の販売意図の推測によつて、被上告人が確認審判を請求する利害開係を有すると判断した甲第3号証の判決は確定したのであり、特許庁は、この判断に拘束され、これと異なる判断をなしえないから、本件審決は取消を免れえない、というのである。

しかし、上記の取消理由は行政事件訴訟法第33条の解釈を誤つてなされたものと言わざるをえない。審決取消判決が確定したとき、取消された審決と、全く同一の事情のもとに、同一の理由に基づく同一内容の審決を繰り返すことの禁止されることは言うまでもないが、これと別の事情もしくは異つた資料によつて、結論として同一の審決をすることは何等の妨げがないのである。

特許庁は、審決の理由の項に詳しく説示したように、甲第3号証の判決によつて取消された甲第2号証の旧審決の審決時とは異なつた事情のもとに、新しく提出された異つた資料に基づいて本件審決を下したのであるから、これをもつて、甲第3号証の判決の拘束力に抵触するものであるということはできない。

2 確認審判請求事件における利害関係有無の判断は、その審決時の事情を基準としてなされるべきであるが、原判決は、甲第2号証の旧審決の審決時の事情と本件審決の審決時の事情との相違を全く無視している。

本件実用新案は、昭和41年9月26日をもつて存続期間を終了し、消滅したのである。甲第2号証の旧審決の審決時(昭和36年9月2日)には、本件権利は存在したのであるが、本件審決の審決時(昭和53年2月10日)は、本件権利の存続期間の終了後である。従つて、審判請求について利害関係ありとなすには、上告人が本件権利の存続期間中に(イ)号物件を製造もしくは販売したとの事実のあることを要するのは当然であろう。権利消滅後にあつては、販売意図のあることによつてその権利を侵害することは考えられない。

本件では、上告人が(イ)号物件を製造もしくは販売したとの事実を認めた判決並びに審判はない。ただ、利害関係を認めた甲第3号証の取消判決も、たんに上告人の販売意図のあることを推測しうると判断したにすぎない。従つて、権利の存続期間終了後の本件審決の審決時においては、もはや単なる販売意図の推測によつて利害関係を認めることはできない。それを認めるには、上告人が積極的に(イ)号物件を製造または販売したとの事実が認められなければならない。

よつて、本件審決は、その審判過程において、これらの事実を審理し利害関係なしと、正しく判断したのである。

3 前記のように、本件審決は、甲第2号証の旧審決の審決時においては、本件権利の存続期間中であるから、その販売意図の推測によつても利害関係を認めうるのに、本件審決の審決時は、本件権利の消滅後であるから、その存続期間内における製造販売の有無の判断が要求される、という事情の変化のもとに、新たな証拠資料をも斟酌して審決時の利害関係の有無を判断したのであるから、本審決は原判決の指摘するが如き違法はない。

以上の理由によつて、原判決は破棄されるべきである。

以上

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